松竹と言えば寅さん、誰がなんと言おうと寅さんというのが50歳以上の方の認識でしょう。未だに、葛飾柴又帝釈天は大人気、日本人ばかりでなく海外からの寅さんファンも訪れるとか。日本的なユーモアとかペーソスというより、人の生き方は違っているようで通じ合うものがある的なところが海外の人たちにも受け入れられる理由かもしれませんね。と寅さん話が長くなりましたが、日本映画の黄金時代というタイトルに戻って、今回は寅さん以外の見るべき松竹黄金時代映画をご紹介します。
女性映画、文芸映画なら松竹なんですね
シリーズⅠの東宝編でも触れましたが、昭和20年代末期から30年代にかけての松竹と言えば笑う子も涙する文芸作品・女性路線の作品が多かった印象があります。第二次世界大戦後の没落した名門貴族の姿を描く「安城家の舞踏会」。父と娘、家族の絆などを描き、国際的にも評価の高い、名匠小津安二郎監督作品「晩春」「麦秋」「東京物語」の通称「紀子三部作」。日本初の“総天然色”長編映画「カルメン故郷に帰る」(ここでも昭和のお約束、同映画の主題歌を歌っているのは主演の高峰秀子)。真知子巻というストールファッションでも有名になった大ヒット恋愛ドラマの「君の名は」。そうあのアニメと同タイトルの名画です。70万部という当時のベストセラー小説を映画化した「挽歌」も恋愛系の文芸作品。小津安二郎監督の遺作「秋刀魚の味」も忘れてはいけない作品です。この様に恋愛・文芸・女性指向と明確な路線だった松竹ですが、突如大きな変化が巻き起こります。
松竹ヌーベルバーグ
映画好きならヌーベルバーグと聞けば「あのフランスのジャン=リュック・ゴダールやフランソワ・トリュフォーの」と思い浮かぶでしょうが、ヌーベルバーグ?なにそれ?という方のために一言。フランス語で新しい波を意味するヌーベルバーグは1950年代のフランスで起こった即興的な演出などの特長を持つそれまでにない映画製作の方向性。今の時代で言えば実験的な作風の多いインディペンデント映画にあたるものでしょうか。ただ当時の日本ヌーベルバーグとされる作品は松竹や日活などメジャー系という点で大きな違いがあります。
さて、松竹ヌーベルバーグの到来を決定づける作品となったのが大島渚監督の「青春残酷物語」です。鬱屈した未成熟な若さのエネルギーや反社会的な行動、セックス描写など当時の人々に大きな衝撃を与えた作品とされています。その後、石原慎太郎原作篠田正浩監督の「乾いた花」、オーソン・ウェルズの「市民ケーン」にインスパイアされたとされる同監督の異色時代劇「暗殺」など、従来の恋愛・文芸路線に加えて、都会の若者世代に支持される意欲的な作品を発表することになります。しかしこの路線が続いたのもわずか数年。「日本の夜と霧」の上映中止をきっかけに大島渚は松竹を離れ、松竹ヌーベルバーグというブランドも消えていってしまったのです。
やっぱり寅さん?というその前に
こうして改めて見てみると松竹映画はやはり女性。当時の女性の行動や考え方、女性に対する社会の目や家族、夫婦の関係など、現代と大きく異なる中にも共通する感覚には考えさせられるものがあります。原節子、高峰秀子、岸恵子、加賀まりこなど女優縛りで見る松竹映画というのも面白そうですね。
そして黄金時代が過ぎ、映画が斜陽産業と呼ばれ始めた頃、救世主のように登場したのが「男はつらいよ」の寅さんシリーズです。
黄金期と寅さんの間のミッシングリンクとしてタビノト的におすすめする映画があります。それは1964年公開の「馬鹿まるだし」に始まるハナ肇(はなはじめ)主演の通称馬鹿シリーズ。男はつらいよの原点とも言われるこの作品には、それまでの松竹作品にも、後年の伝統芸的な寅さんシリーズにも、見られないような一種強烈なエネルギーに満ちています。ついでにもうひとつ松竹唯一の怪獣映画「宇宙大怪獣ギララ」。いろいろな意味で当時の時代背景やその波に乗ろうとして乗り切れなかったところに味を感じさせる一作です。
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