かつてのメジャー5社、ラスト1は大映です。なんでもありのあの大映です。パンツにコカインで一時日本中を騒がせた勝新太郎さんの「悪名」です「座頭市」です。黄金時代のさなかに大看板市川雷蔵さんが逝去されたり、田宮二郎さんとオーナーの軋轢問題があったりなど、映画作品以外でもなにかと世間を騒がせたのもこの大映という会社。と書くと危ない会社と思われそうですが、作品は超一級。あの黒澤明監督の名作「羅生門」は大映の作品です。黒澤明=東宝の監督と記憶している人も多いようですが、1946年から1952年まで東宝の労働争議の影響もありフリーという立場にありました。その間に撮った羅生門がアカデミー名誉賞、ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞して「世界のクロサワ」と呼ばれるようになったのだから、世の中はわからないものです。羅生門の受賞に気を良くした?大映は地獄門、雨月物語と次々作品を発表し国際的なフィルムシーンで名を高めました。
あのマイナートーンはどこからきたのか
この文芸路線の一方で、子供向けの赤胴鈴之助シリーズや長谷川一夫の銭形平次シリーズがあるかと思えば、当時の金額で5億とも7億とも言われる制作費をかけた超大作「釈迦」で世間を驚かせたり、三島由紀夫の金閣寺を映画化した「炎上」で現代文学を取り上げる一方、京マチ子、若尾文子、山本富士子主演の女性向け映画、そして「座頭市」「悪名」「兵隊ヤクザ」の勝新太郎主演のシリーズでは男臭さもムンムンとやりたい放題。それだけではありません、市川雷蔵主演の「眠狂四郎」「陸軍中野学校」の両シリーズ、田宮二郎の「白い巨塔」もありましたね。子供向けの作品では「ガメラ」「大魔神」。と邦画界でも引き出しの多かった大映ですが、映画のトーンとしては陽気で明るい東宝、キザでヤンチャな日活、元気な時代劇の東映、落ち着いた女性路線の松竹と各社の特長をあげるとなると、どうしても暗いというかしっとりとしたイメージが拭えないのです。明るさの中にもどこか暗さがと言っては失礼でしょうか。
そこがまた魅力と言えるのですが、大映のスターにしても若くして亡くなった市川雷蔵、非業の死を遂げた田宮二郎、豪放磊落ではあってもどこか物悲しさを感じさせる勝新太郎と特有のオーラを感じずにはいられません。
そして大映は記憶の中の存在に
その後大映は1971年の12月に終焉、倒産という事態を迎えます。1974年に徳間書店の資本により大映映画株式会社として蘇りますが、2002年に角川書店に譲渡。映画制作会社としての大映は姿を消してしまいました。黄金時代から倒産に至る大映の歴史は、まるで日本映画界の絶頂期から衰退期までをトレースした縮図のようにさえ見えます。
そんな大映作品の中からタビノトが勝手に選んだ“これは見ておけ”10作品(シリーズ含む)を紹介します。
「羅生門」
1950年公開
監督:黒澤明 出演:三船敏郎、京マチ子、森雅之
「炎上」
1958年公開
監督:市川崑 出演:市川雷蔵、仲代達矢、中村雁治郎(二代目)
「しとやかな獣」
1962年公開
監督:川島雄三川島雄三 出演:若尾文子、船越英二(船越英一郎のお父さん)
「黒の試走車」
「座頭市」シリーズ
1962年〜1971年公開(以降の座頭市は他社の制作配給)
勝新太郎主演 後年ハリウッドで映画化された「ブラインド・フューリー」、ビートたけし版、香取慎吾版と見比べるのも面白そう。
「眠狂四郎」シリーズ
1963年〜1969年公開
市川雷蔵主演 他に鶴田浩二、松方弘樹、平幹二朗、田村正和も眠狂四郎を演じていますが、市川雷蔵作品こそ本命、ご覧いただければわかります。
「ガメラ」シリーズ
1965年〜1971年公開
平成にも映画化されたゴジラのライバル。童心に返ってもう一度。
「大魔神」シリーズ
1966年公開
1966年に相次いで3作が公開されたがそこでシリーズは終了というナゾに満ちた作品。
「氷点」
1966年公開
監督:山本薩夫 出演:若尾文子、大楠道代、山本圭
「華岡青洲の妻」
1967年公開
監督:増村保造 出演:市川雷蔵、若尾文子、高峰秀子
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