2019年の訪日客は3000万人を突破か?
日本政府観光局(JNTO)が発表した2017年の1年間に日本を訪れた訪日外国人の人数(訪日外客数:推計値)は前年比19.3%増の2869万1000人。前年度の2403万9700人を大きく上回り統計開始以来の最高記録を更新する結果となった。2018年は西日本の豪雨や大阪府北部・北海道胆振東部の地震による影響が懸念されていたが、9月単月こそ前年度より減少したが、1〜9月の合計では2346万8500人と過去最高。この調子が続けば3000万人の大台も突破ということになりそうだ。
東京や大阪、京都などでは海外客を見かけることなど珍しくもないが、札幌、名古屋、福岡、新潟、仙台などの政令指定都市でも外国人客の増加は著しい。東京オリンピック開催による日本ブームなどもあり、2019年度は地方都市にも外国人客が押し寄せることが予想されている。
中国人富裕層160人はなぜ大挙して高岡へ
さて、そんな折もおり、中国人富裕層160人が富山県高岡市を来訪というニュースが飛び込んできた。一度に160人の団体ともなれば、これはもう観光客というより視察団。いったい高岡市に何があるというのだろう。筆者が知っている高岡市といえば藤子・F・不二雄(ドラえもん)、藤子不二雄Ⓐ(怪物くん、忍者ハットリくん)両先生ゆかりの地という程度のことだが、高岡は県庁所在地の富山市に次ぐ県内第二の都市。伝統工芸の高岡銅器に代表される鋳物の生産で知られ、豊かな水と電力を背景にしたアルミニウム工業も盛んな技術工業都市でもあったのだ。ということは…加工技術とか、職人技とか多分そのへんですね富裕層御一行様160人の狙いは。はい、この予想は、基本的には大当たり。高岡市のHPによれば、「日中両国の若手職人の交流を目的とした「第1回日中若手職人交流事業」の取り組みの一つで、視察先として、あまたある町の中から東京や京都・大阪と並んで、高岡市が選ばれ、実現したものです。(原文ママ)
また、今回の視察(やっぱり視察だったんですね)の目的は、「日本の職人精神を学びたい」「自社の製品を作る際、日本と連携していきたい」「伝統のものと新しいものをどう繋いでいくかが、中国の課題。日本を参考にしたい」等々。そこで400年ものモノづくりの歴史を持つ高岡市が選ばれたというわけだ。
地方自治体、地域に求められる文化発信の工夫
日中若手職人交流事業という名の通り、参加者は中国の職人さんや企業の経営者、メディアなどビジネスの最前線に立つ人が中心。主催者でもあるプロデューサーの呉暁波さんは、中国人による電化製品の爆買いブームの火付け役といわれている経済作家でもある。一時より鈍化したとはいえまだまだ好況感のある中国の経済事情。だがそれに満足することなく将来へ向けた基礎技術の向上を目論む中国側と、モノづくりの活性化で地域産業の発展を目指す高岡市の狙いが一致したというわけだ。
実は中国富裕層にターゲットを絞った高岡市の展開は今回に始まったことではない。すでに2010年には、市内の病院で海外からの糖尿病患者を受け入れて健康管理を指導し、併せて県内で観光も楽しんでもらう「医療観光」ツアーが企画されている。
一見すると唐突にも思える今回のニュースだが、その背景には長年に渡る自治体や地域の努力が隠されている。文化は守り受け継ぐことも大切だが、発信なくしては明るい未来を描くことはできない。そんな事を考えずにはいられなかった。
文化・技術は所を変えて伝わる
さて、中国側の視点で見るとまた別の事実が見えてくる。今からもう20年以上も前、日本の企業を定年退職した様々な分野の名人級の技術者たちが、何人も技術指導で中国へと足を運んだという事実がある。国際的衣料チェーンの中国工場でも撚糸・染色など日本の技術を伝えるため名人級の技術者が現地で指導にあたっていた。一種の技術流出である。この経験が、日本の技術文化を吸収しようという意識を育てた可能性は否定できない。
また、中国側には、中国では失われた技術や文化が日本に伝わり発展しているという意識もあるようだ。いずれにしても、文化・技術は伝播し、地域・時代というフィルターを経て新たコンテンツとして再生される。私たちにも今再び、日本各地に伝わる伝統技術の新しい可能性の芽を探す努力が求められているのかもしれない。
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