毎年トリップアドバイザーが行っている『外国人に人気の観光スポット』ランキングで堂々の第1位に輝いたのは京都の伏見稲荷神社。2位に広島平和記念資料館(原爆ドーム)、3位宮島(厳島神社)、4位東大寺と上位を西日本エリアが占め、やっと5位に新宿御苑がランクイン、以下兼六園、高野山、金閣寺、箱根彫刻の森美術館、姫路城と続いている。日本人でも首都圏出身の場合、ベストテン全てに足を運んだ経験のある人はあまりいないだろう。
それはさておき京都には清水寺や金閣寺、銀閣寺など有名どころの観光地が数多ある。そんななかで伏見稲荷神社といえば周辺に観光スポットも少なくエリア的にはメジャーな地にあるとはいい難い。それなのに、なぜ外国人たちは伏見稲荷に足を向けるのか、どんな魅力があるというのだろう。
異世界の入り口か 圧巻の千本鳥居
トリップアドバイザーの外国人口コミをみると「美しい神社」、「絶対に訪れるべき場所」、「見逃せない日本文化を体験した」、「まるで鳥居の回廊」、「私の大好きなオレンジ色(朱色)」、「ファンタスティックな光景」など、感動の言葉が綴られている。この口コミに興味を惹かれて訪れた人たちがさらに新しいクチコミでといった次第に広がったことが1位となった大きな要因でもあるのだろう。
同サイトを見てみると千本鳥居の写真をアップしている人が多いことに気づく。千本鳥居と呼ばれているのは「奥宮(おくみや)」から「奥社奉拝所(おくしゃほうはいしょ)」へ続く山道に造営されている鳥居の総称。鳥居は神域と人間の住む俗界を隔てるための「門」であり、結界ともされているが、直径15〜30cmほどの朱柱で組まれた鳥居が10数cm間隔で約400mほどの距離に立ち並ぶ光景はまさに圧巻。人をうつし世から異世界へと誘う道というイメージにふさわしい舞台装置。
千本鳥居の数は入れ替わりなどもあり変動しているため正確な本数はわからないが、現在の実数は約800基ほどと千本を満たしてはいない。ただし稲荷山全体でみると4000基近く、鳥居に覆われた神域にふさわしい地というわけだ。ちなみに千本鳥居は希望すれば誰でも奉納することができるが、現在は予約待ちとのこと。費用は175,000円からと個人でも可能な金額となっている。
世界遺産ではないけれど その美しさは世界を魅了する
全国各地に広がる「お稲荷さん」の総本宮として約1300年の歴史を持つ伏見稲荷は、初詣に訪れる参拝客の数でも西日本一とされる人気の神社。加えて外国人からの人気も高いとくれば、当然世界文化遺産の構成資産なのだろうと思うのだが、意外なことに世界文化遺産「古都京都」を構成する17の資産のなかにその名はない。その理由としては、世界遺産に推薦されるにあたっては国宝や重要文化財への指定が重要視されるが、伏見稲荷は推薦当時まだその資格を満たしていなかったことなどがあげられる。
俗な言い方をすると無冠の帝王的な存在とでもいうのだろうか。国家や国際機関といった権威ではなく、世界の市民が認めた価値という点では、より身近な人類遺産といういいかたさえできそうだ。
全山が信仰の対象である稲荷山は、標高約233m、一周約4km。眼病の神様を祀る「眼力社(がんりきしゃ)」、喉の神様を祀る「おせき社」、無病息災の「薬力社」など、ご利益のあるお社や見どころなど尽きせぬ魅力に満ちている。
タビノトのおすすめは夜の千本鳥居。昼は周囲の緑と朱のコントラストが見事な千本鳥居だが、鳥居の間に吊るされた提灯の光に浮かび上がる美しさは、一種幻想的な素晴らしさ。このライトアップシーンを情報サイトやインスタグラム、フェイスブックなどSNSにあげる外国人も多い。人を魅了する光景には、国境や言葉、政治、宗教意識という垣根さえ超える感動という力が隠されている。この感動こそ人類共通の財産なのかもしれない。
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