文化・マナー・習慣

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がっかり それとも ここが気になる日本の世界文化遺産

2023年10月06日

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世界や日本の3大〇〇などと呼ばれる観光資源の中には「エッこれが?」と予想を裏切られる名物も珍しくはない。この傾向、ユネスコが認定した世界遺産についても例外ではないようだ。日本には現在、文化遺産・自然遺産合わせて22の世界遺産があるが、がっかり度で、これぞナンバー1と目されているのが「明治日本の産業革命遺産」だ。 知らない人のために説明しておくが、同遺産に関する建造物は九州から東北までの8県に点在している。いってみれば世界遺産の多店舗展開、さらにいえば決定打はないが、数の力で強引に判定に持ち込んだ的なニュアンスもなくはない。 同遺産の構成資産として取り上げられている施設群は全部で23ヶ所。長崎県だけに限っても小菅修船場跡、三菱長崎造船所第三船渠、三菱長崎造船所ジャイアント・カンチレバークレーン、三菱長崎造船所旧木型場、三菱長崎造船所占勝閣、高島炭鉱、端島炭鉱、旧グラバー住宅と8ヶ所もある。これではいざ世界遺産を見に行こうと決めても、すべてを網羅するのは簡単なことではない。合わせ技だけに“見もの”としてのインパクトに欠けるのも分かる。そんなところが、がっかり度ナンバー1の理由だろう。

世界遺産って観光や見物のための施設ですか?

「明治日本の産業革命遺産」は我が国の産業遺産の中で初の重工業分野における産業遺産という点で趣を異にしている。それはまさに、日本が長い鎖国の時代から近代国家へと急激な変貌を遂げることになる原動力でもあったのだ。先ほど同遺産を構成する施設は23ヶ所と書いたが、実はその8資産が現役で稼働中ということも付け加えておこう。 「明治日本の産業革命遺産」は過去の施設を見物する観光資源などではない。現代の日本へとつながる壮大なストーリーを表現する舞台装置でもあるのだ。 同資産は当初「九州・山口の近代化産業遺産群」として地元自治体主導で登録が進められたが、それが後に「明治日本の産業革命遺産」と全国規模に拡大されたことにも注目したい。欧米、特にヨーロッパを中心に経済・産業が発展していた時代、わずか50年ほどの間に飛躍的な経済的発展を成し遂げた国は当時、世界でも類を見ない存在として、驚愕あるいは脅威の視線で世界の注目を集めたのだ。

旅をがっかりにするもしないも本人次第

歴史上、重要な特異点の形成に携わった施設群は、目に見えるモノだけでがっかりと評価すべきではない。 歴史的な意義とその後の日本と世界への影響を視点に加えると、見方もまた変わってくる。ヨーロッパ列強の時代からアメリカの台頭、日本という特異点の存在、そしてアジア、ひいては現在に至る歴史の歩みを考えた時、遺跡の一つ一つは点ではなく、明治・日本・産業などのキーワードで結ばれた線として歴史の中にその姿を表す。 各社から「明治日本の産業革命遺産」をテーマとした旅行商品が発売されているが、その手始めとして維新の立役者でもあり、同遺産の原型ともなった九州地区への世界遺産ツアーをおすすめしたい。その筆頭が、端島(軍艦島)だ。1890年から本格的な採掘が始まったこの島では、すでに大正年間には首都圏にもないほどの高層鉄筋アパート群が建設されている。最盛期の1960年頃には人口5,000人以上、限られた敷地内には小中学校や病院、映画館、公園、遊興施設まで揃った超過密都市でもあった。その栄光の歴史も主要エネルギーの座が石炭から石油に移ると衰退し、1974年には閉山で無人島と化している。創業から発展、そして閉山へと移る栄枯盛衰の歴史は、そのまま激動の明治から昭和の高度成長期を駆け抜けた日本の姿が投影しているかのようにも見える。 この端島体験をベースに、長崎、九州の各遺産そして他の「明治日本の産業革命遺産」へと、数年の時を掛け歴史を旅するように明治大正という日本の歩みをトレースするツアーを楽しんではどうだろう。

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