何気なく使っていますが、民芸品という言葉が日本語として認知されるようになったのはそう古い話ではありません。言葉の誕生は1925年、思想家で美学者でもあった柳宗悦や陶芸家の河井寛次郎が民芸運動というムーブメントを提唱したことに始まります。民芸運動とは日常的な暮らしの中で使われてきた手仕事の日用品の中に「用の美」価値を見直す再発見のススメ。そのプロダクツのことを民衆的工芸品、略して民芸品と呼んだというわけです。柳宗悦はインダストリアルデザイナーの柳宗理のお父さんといったほうがよく分かるかもしれません。
陶器などでも日常使いの道具を民陶と称することがあります。この言葉からもわかるように、民芸品は作品を飾り眺める観賞用の道具ではありません。生活の中で使われてこその民芸品なのです。民芸品と聞いて郷土玩具や観光地の売店で見かける大量生産のお土産を連想する人も多いようですが、それはあくまでも民芸品の一部。生活道具という側面から考えるとイメージ的には手作りで、気軽に使える工芸品的な立ち位置がふさわしいのかもしれません。そういう意味では作家名が入った立派な道具などは民芸品の範疇から外れるのかもしれません。
その地域ならではの民芸品を探す旅だって
とまぁ小難しい定義めいたことを書きましたが、手作り・大量生産・実用道具・玩具とジャンル分けなどせず、時代を超えてスタンダードに愛されている品々、それが民芸品という解釈はどうでしょう。さて、道具の本質を追求した民芸品の大きな魅力は使用目的に合わせたデザイン性の高さ。昔から普通に庶民の間で使われてきた民芸品には、素材やデザインにもその土地その土地の地域性がよく表れています。同じ用途に使われるものでもちょっと違うこの個性がコレクター魂を刺激するのです。
わかりやすい例でいうと、わっぱやメンパと呼ばれる木製のお弁当箱。スギやヒノキなどの薄板を曲げて作られるあの蓋付きのあれといえばなんとなくイメージがわかりますよね。青森県のひばの曲物、秋田県では大館曲げわっぱ、静岡県なら井川メンパ、長野県には木曽ヒノキを使用したメンパ、三重県名産の尾鷲杉を使った尾鷲わっぱ、福岡県には杉の博多曲物など地域によって素材となる樹木や名前も異なるこのわっぱくんたち。プラスチック製のお弁当箱などに比べ手入れの手間こそかかりますが、木の香や木目の美しさなどから最近はお弁当女子・男子の間で静かに人気となっています。そうそう環境に優しいエコロジカルな品という点も人気の一端のようです。お手入れが面倒そうという人のために、漆塗りを施したものもあるそうですから、面倒くさがり屋さんもこれなら大丈夫。
同じような理由で木のつるや竹を使ったザルやかご、木製の桶などにも人気が集まっているそうです。漆塗りのお盆やお椀、さきほど上げた民陶と呼ばれる各地の普段遣いの陶磁器もいいものですよね。旅先で、その土地その土地の民芸品から始める日本文化の再発見。なんだかちょっといいななんて思いませんか。
全国の民芸館に行ってみよう
柳宗悦の意を今に受け継ぐ民芸品の一大スポットが東京にあることをご存知ですか。目黒区駒場にある『日本民藝館』は民芸運動の拠点として開設された美術館。ミュージアムショップではお目当ての新作民芸品などの購入もできます。 でも東京はちょっと遠いという人も大丈夫。うれしいことに大阪日本民芸館、松本民芸館、富山市民芸館、日下部民藝館、豊田市民芸館、倉敷民藝館、鳥取民藝美術館、出雲民藝館、熊本国際民藝館、愛媛民藝館、京都民芸資料館とそのネットワークは日本中に広がっているのです。週末はお近くの民芸館で道具を通して知る日本文化体験なんてどうでしょう。
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