日本人が愛し、日本の美の代名詞として世界にも知られている富士山。左右対称の美しいコニーデ型の山容は文字通り日本を象徴する気高さに満ちています。世界遺産には内容によって自然遺産、文化遺産、複合遺産の3種があります。富士山を世界遺産へという運動が始まった当初、それは自然遺産としての登録を目指したものでした。それがなぜ世界“自然”遺産ではなく、世界“文化”遺産へと変わってしまったのでしょう。
理由があります。富士山は2013年(平成25年)6月22日には関連する文化財群とともに「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」の名で世界文化遺産に登録されていますが、その時が初の世界遺産チャンスだったわけではないのです。ではなぜそのチャンスを掴めなかったのでしょう。その最大の原因は、なんとゴミ問題。富士山は長年、ごみの不法投棄や産業廃棄物の場所として活用されてきてしまったり、登山道のトイレ整備が問題となっていたりなどなど。当時は“エッ!ゴミが問題になってるの”と驚きの声も上がっていましたが、環境意識が高まっている今ならわかりますよね。確かにゴミ問題をちゃんと解決してこその次の世代に残したい自然遺産というものですからね。
世界遺産だけど構成資産 この合わせ技にも理由があります
富士山構成資産とは、強引な言い方をしてしまえば「富士山とゆかいな仲間」的なチームとしての登録です。文化遺産へ登録されるにあたっては富士山の存在が昔から日本の文化や「信仰の対象」であったり、「芸術の源泉」として浮世絵や和歌、俳句などの題材に取り上げられたりなど「こうこうこういう経緯や理由があるから富士山には文化的な価値があります」と証拠をあげて述べよというわけですね。
そこで登場するのが、富士山プラス、証明を満たすための構成メンバー。こうして選ばれた構成資産は全部で25箇所。富士山本宮浅間大社奥宮や、登山口、西湖・精進湖などの湖、青木ヶ原樹海を含む富士山域を中心に、富士山と関わりの深い周囲の神社や風穴、溶岩樹型、湖沼などから成り立っています。世界的に知られている富士山ですが、その世界遺産登録には思った以上の苦労があったのですね。
世界文化遺産登録の取り消しの危機?
世界遺産には未来に継承すべき人類共通の遺産という意味合いがあります。でもその登録理由となった価値が損なわれた場合には登録リストから抹消されることもあるのです。これまでには、オマーンの偶蹄類「アラビアオリックス保護区」が13年後の2007年に、また2009年にはドイツの「ドレスデン・エルベ渓谷」が種々の理由で登録を抹消されています。富士山も決して例外ではありません。
現に2016年にも登録抹消の危機があったのです。この時はユネスコ世界遺産センターへ提出した対策報告書が審査され、登録抹消は無くなりましたが油断することはできません。ごみ問題も含めた登山者の増加による環境負荷、裾野の景観問題など、世界遺産としての富士山を守っていくための取り組みに終わりはありません。
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