言葉が通じなくともイメージを共有できるイラストや絵画は意思伝達の優れた手法です。古くから様々な民族の間で絵文字として使われてきました。私たちが普段使っている漢字も、もともとは意味を伝える絵から発展してきたものです。文字が一部の人たちにしか使われていなかった時代。イラスト=絵文字は相手に意味を伝える貴重な手段として重宝されてきたのです。
鎌+お椀のイラストで離婚成立?
江戸時代のことを書いた本の中にこんな話が書いてありました。今も昔も男女の仲は難しいもの、大好きだった相手についつい嫌気がさしてしまうことも人生にはありがちな出来事。今ならそこで離婚届を提出して正式に…となるのですが、江戸時代の離婚はというと、離縁状という「もう一緒にいるつもりはないから勝手にしていいよ」という内容の書面が離婚の証明として使われていたそうです。別名、三行半(みくだりはん)というのですが、字の書けない人は紙に3本+半分の長さの縦線を書き、拇印を押すことでも通用していたことから、3行と半分で三行半と呼ばれるようになったそうです。
ちなみに絵心?のある人は、3行と半分の線の代わりに鎌と椀で「かま・わん」=構わんとしゃれたという話も。いかにも軽妙洒脱な粋を旨とする江戸っ子らしいお話ですね。
マンガのご先祖様は鳥獣戯画?それとも葛飾北斎?
日本古来のイラストといえば忘れてならないのが鳥獣戯画です。この絵巻物の正式名称は鳥獣人物戯画として国宝に指定されています。その内容は当時の世相を動物や人物になぞらえて戯画的に描いたもので、一種のイラストニュース的なもの。擬人化されたウサギ・カエル・サルなどの絵といえば、「あぁあの絵」と思い当たる人も多いのではないでしょうか。その構図や場面には現在のマンガによく似た効果や技法が見られることから「日本最古の漫画」ともいわれています。
マンガといえば漫画というタイトルを冠した江戸時代の絵画もあります。葛飾北斎作といわれる北斎漫画は、タイトルこそ漫画ですが、作画のお手本をまとめたスケッチ画集。現代でいうならイラストレーター志望者向けのイラスト入門画集のような位置づけにあたるでしょう。海外では「ホクサイ・スケッチ」とも呼ばれています。その内容は人物、風俗、動植物、妖怪変化など約4000もの絵から構成されています。ちなみに漫画という名前の由来は「気の向くままに漫然と描いた画」だからなのだそうです。現代の漫画の語源が北斎漫画にあるかどうかは不明ですが、北斎は「絵による随筆」「戯画風のスケッチ」の意味で漫画を使用していることを考えると、マンガの先祖というより日本のイラストのルーツ的な存在ではないでしょうか。
世界の絵画界を驚かせた浮世絵ブーム
北斎が出たついででもありませんが、日本のイラストといえば浮世絵の存在を抜きには語れません。浮世絵は版画ですが、一般の人々が気軽に手にすることができたという点では、現代のイラストポスターにも匹敵するもの。その題材も風景であったり、今でいうアイドル的な人気役者やお芝居の1シーンだったりとマスメディア感覚で受け入れられたことからもこの解釈そう間違ってはいないでしょう。浮世には“現代風”という意味があり、当時の世相や風俗を描いたという点でも現代イラストに相当する位置づけにあったと思われます。 人気の役者絵などは飛ぶように売れたという話もありますから、今で言えばイラスト+アイドルポスター+劇場パンフレット+報道写真の全要素を含む総合的な視覚メディアであったことが想像できます。また浮世絵といえば大胆な構図やデフォルメ、色彩などがゴッホ、モネ、マネ、ドガ、ルノワール、ピサロ、ゴーギャン、ロートレックなどヨーロッパ印象派の画家達に影響を与えたことでも知られています。
日本人が育てた絵画の表現力や技法は現代のイラストやマンガ、アニメにも受け継がれています。
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