文化・マナー・習慣

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和の心通う四季の国。豊かな海と山の里の色ごよみ。日本文化を語る色彩の世界

2024年02月03日

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色彩に関する感覚は国や民族によって異なります。この感覚の違いには赤道近辺では赤味が増し、離れるに従って青味が増すとされる太陽光の波長や日照時間、目の中のメラニン色素の量などが関係しているとされています。
では、日本人が持つ色彩感覚とはどのようなものでしょう。海山の自然に恵まれ、四季折々の変化の中に暮らす日本という環境。変化はあっても穏やかな自然と時間の移り変わりは中間色を貴重にした独自の色に対する感性を育ててきました。今日、日本の伝統色と呼ばれる色の名称は、千百を超えるとさえ言われています。そして、微妙な色あいの違いを表現する言葉にも繊細な響きが隠されています。

今、私の手元には、財団法人日本色彩研究所が歴史資料に基いて選定し、DICグラフィックス株式会社が現代の色料を使い再現した色見本帳「日本の伝統色」があります。 その中から、四季それぞれを代表する和の色をテーマに、祖先が色に込めた思いやロマンなど日本文化のエッセンスとも言うべき感性について紐解いてみましょう。

春の色

梅、桜が芽吹き、生命が歓喜の声を上げる季節。桜色という言葉からは鮮やかなソメイヨシノを想像しがちですが、ここでいう桜色とは淡い色合いの山桜のこと。また、梅の名にちなんだ紅梅色はわずかにシアン系を感じさせる明るいピンク。そして文字通りの新緑を想像させる若葉色ですが、これもまた芽吹いたばかりの若い緑そのままの薄い色合い。冬枯れの殺風景な景色の中に見つけた小さく可憐な春をイメージするような色となっています。どれも淡く優しいトーンの中にも明るさを感じさせ、春の喜びを表現したような色合いと感じるのは、現代人の勝手な解釈でしょうか。

春の彩り

夏の色

初夏から陰鬱な中にも来るべき季節への期待を抱かせる梅雨、ムッとするような熱気と明るい空、ここぞとばかりに命が躍動する夏へ。初夏の若々しい生命力を感じさせる浅い緑をした若竹色。暑さをやり過ごすように涼し気な薄い藍色をした薄浅葱(うすあさぎ)は、その名の通り葱の若葉をイメージしたネーミング。シアンとマゼンタの組み合わせにイエローがかすかな変化を与える杜若色(かきつばたいろ)の別名は江戸紫。着物など日常のカラーリングに寒色系の色合いを取り入れることで、暑さを和らげようという発想も、季節と共に生きることを良しとする日本文化の精神なのかも知れません。

夏の彩り

秋の色

農業、漁業などの一次産業が主流だった時代、秋は実りの季節でもありました。高く青い空、田畑や山野に実る季節の味覚、山々を染めていく紅葉。色彩豊かな秋は収穫の喜びを称える季節であると同時に、やがて来る冬へ向けた季節でもあるのです。どこかもの悲しげな秋の柔らかな夕日を感じさせる茜色(あかねいろ)。日本の秋を代表するフルーツ柿の実を連想させる柿色はイエローをベースにマゼンタと少量の黒が入った鮮やかな色合い。もう一つ秋の味覚を代表するのが黒みがかった赤褐色の栗皮色。江戸時代には女性の帯色として流行色だったと伝えられています。

秋の彩り

冬の色

厳しく寒い冬だからこそ、人は希望を抱くことで明日への意欲をつなごうとします。寒々しいイメージの銀鼠(ぎんねず)とは反対に白茶(しらちゃ)に少し赤みを差したような薄香色(うすこういろ)のほのかな温かみ。色合いが失われがちな季節の中にも春を予感させるやさしい色合いの白梅色(しらうめいろ)は、古歌で雪にも例えられる色です。また松など常緑樹の緑を連想させる千歳緑(せんざいみどり)、力強い生命力を感じさせる朱色(しゅいろ)など、寒さを耐え春への夢をふくらませるような日本の心が感じられます。

冬の彩り

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