実写で映画化もされた人気コミック「ちはやふる」で脚光を浴びたのが競技カルタ、小倉百人一首の歌を読み札にしたあの競技ですね。百人一首や和歌などと聞くとどうしても文化系・伝統系の優雅なものと思われがちですが、競技カルタはいっそ体育会的なスポーツ系。考えようによってはオリンピック種目であるカーリング以上にパワーとアグレッシブさが必要とされる競技です。
そのカルタの中でも異質中の異質な存在が北海道で行われているカルタ。他の地域とどこが違うかというと、初めて目にした人が驚くのが取り札。普通は紙の札なのですが、北海道のカルタはなぜか木製!しかもその大きさは縦75mm、横50mm、厚さ5mmの存在感たっぷりの代物。当然のように競技会もあります。この競技会がかなり体育会度高め。小学生の大会などでは動きやすいジャージ姿で、叩きつけるように札を取ります。紙の札に比べ重量もそれなり、固さもねぇ。プレイヤーもだけど、周囲の観戦者や審判への危険は大丈夫?と思わず心配になるほどです。これで驚くようではまだまだ、北海道のカルタ違いはこんなものではありませんよ。
達筆すぎて字が読めないの不思議
普通、カルタといえば読み上げるのは上の句で取るのは下の句ですよね。和歌ですから、上の句と下の句でワンセット、そういうものだと思っていました。しかい北海道はここからして違います。読むのは下の句、じゃあ取るのはというとこれも下の句。上の句は一切無視です。えっこれ百人一首ですか?という疑問の声が上がるようではまだまだ甘い。
読めないんです、取り札に書かれている字が。それも当然この文字は「変体仮名」と呼ばれる特殊な書体。現在では一般に目にする機会のない、ある意味伝統回帰的な書体なのです。はじめての人は相当面食らうんじゃないかな。ちなみに変体仮名を検索すると“変体仮名(へんたいがな)は、平仮名の字体のうち、1900年(明治33年)の小学校令施行規則改正以降の学校教育で用いられていないものの総称である”となっていました。これは無理ですね。北海道開拓の初期に使われていたものがそのままのスタイルで伝承されているのでしょう。ある意味、歴史の浅い北海道が残すべき貴重な文化遺産なのかもしれません。それにしても北海道の小学生、この文字が読めるんですかねぇ。妙に感心してしまいました。
北海道オリジナルのなぜ
それにしても謎の多いこのカルタde北海道オリジナルバージョン。その秘密に迫ってみたいと思います。まず第一の謎、なぜ木製かという疑問への答えは開拓時代の屯田兵起源説、それ以前の羽幌地区起源説、その他にも山形、秋田、石川、鳥取、島根と日本海側にルーツも求めるなど諸説あります。その中で近年有力とされているのが会津若松版起源説です。なんと「会津若松市史」に文化文政(1804〜1829年)頃、会津若松藩では板カルタが武家や商家で行われるようになったとあったのです。しかも後に、百人一首の札は紙製ではなく朴の板で作るようにという記述もあるくらいですからこれは間違いなし。
一方の下の句読みの下の句取りについても、同市史に「下の句を読みて下の句を採る習ひあり」と書かれています。会津といえば白虎隊の悲劇でも知られ最後まで官軍に逆らった地域。国破れ、明日への夢を抱いて渡った北海道にふるさとの文化、下の句カルタを伝えたのですね。歴史のロマンです。
「全日本下の句歌留多協会」という団体がありますが、全日本と言いつつこの団体があるのは北海道限定。それでも全日本と言い切ってしまうあたりに頑固な会津の侍由来の開拓者魂を感じずにいられません。
このように同じ日本でも独自の文化だったり、発祥地では失われてしまった日本の伝統文化を残す北海道。食や大自然もいいけれど、そんな伝統文化に出会う北海道の旅もいいものですね。
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