民族はその固有の環境によってそれぞれに異なる文化を発展させてきました。アジアの一番東に位置する島国である日本も、その独自の環境の中で日本風という文化やライフスタイルを成熟させてきたのです。 自然との関係ひとつをとっても日本人と欧米人のそれには大きな違いがあります。例えば虫の音や自然の音。日本人である私たちには秋の訪れを感じさせる心地よい音色と響くコオロギの声や涼を感じる川のせせらぎも、欧米人の耳には静けさを破る雑音としてしか聞こえません。 また、田舎と聞いて私たちが思い浮かべる里山の光景は一体どんなものでしょう。鎮守の森があり、広がる畑や水田のあぜ道、寺院や程よい距離で広がる民家の屋根。美しい田舎の自然に見えるこの光景、実は人と自然が長い時間の中で共生を続けてきた結果に他なりません。 私たちが美しい日本の自然と感じている光景は、人の手が入らなければ荒々しい大自然へと変貌してしまう仮の姿でしか無いのです。
「風の道」自然を暮らしに取り込む知恵
自然を屈服させるのではなく、共に生きることを選んだ日本の文化は、モノづくりにも活かされています。エアコンのない時代には、涼しさを感じるためには風を利用するしかありませんでした。そこで考えられたのが、建物の南側に引き戸などで大きな開口部を設け、反対の北側に窓などの出口を設けた風通しの良い空間。南と北の間にある部屋の仕切りを引き戸にすることで風はスムースに流れ、心地よい涼を得ることができるのです。これが「風の道」と呼ばれる日本の知恵。この工夫に泉水や日除の樹木、打ち水の気化熱を利用することで暑く、湿気の多い夏をやり過ごそうというのです。この風の道、過去の日本の技術を物語るだけのものではありません。都市の環境問題の一つでもあるヒートアイランド現象を緩和する手法として「風の道」を応用した都市設計が採用されています。エネルギーに依存しないこのエコロジカルな発想こそ、自然に学ぶことから生まれた日本の文化です。
家具と畳のスタンダーナイズ
旧帝国ホテルを設計したフランク・ロイド・ライトは日本の住宅について「極めて合理的なスタンダーナイズされた空間だ」と感想を述べています。これはどういったことなのでしょう。西と東でサイズに違いはありますが、日本家屋では畳が基準となって部屋の広さが決められています。また、押し入れの間口や廊下の幅、窓、ふすま、障子、そしてタンスなどの家具までもが、畳のサイズを基準として作られているのです。 この統一された基準に合わせて暮らすことで、引っ越しをしても家具が大きすぎたり、レイアウトに不備が生じたりなどもないのです。同時にこのスタンダード化されたサイズ共有はコストダウンの面からも極めて有効なものだと言えるでしょう。 私たちが○畳、○畳と数字を聞いただけで、感覚的に部屋の広さを理解できるのもこんな理由があるからです。ちなみに畳の縦横比は大きさに関わらず2:1、2枚を組み合わせることで正方形を構成するように作られています。 また、いつもは個室の6畳間が並ぶ空間も、大勢の集まりにはふすまを外して12畳、18畳の大広間へなど、目的に応じて自由度の高い使い方ができるのも日本家屋の特徴。それにしても100年も前に、この日本的合理精神に目をつけるとは20世紀建築界の巨匠に脱帽です。
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