日本の伝統文化の一つである和菓子。甘く優しい味わいだけではなく、繊細で美しいデザインと色鮮やかで優美な色彩に魅了される人も多いのではないでしょうか?移りゆく四季や花鳥風月などの日本の美しい自然をモチーフにし、一つひとつ手間暇かけて作られている逸品がそろっています。この記事では、和菓子の歴史をたどると共に和菓子職人がどのようにしてデザインを考えるのかを調査してみました。
和菓子の歴史とは
華やかでありながら落ちつきと格式を醸しだす和菓子は、会食やお茶の席に彩りと風流を与える魅力的なお菓子です。和菓子は、目の前にいる人に対し気を使い、常に一歩後ろに引く控えめさ。我慢強く、繊細で丁寧な完璧主義。そんな日本人特有の性質や感受性を色濃く反映していると言われています。
古代日本では、現在のように食が豊かではありませんでした。満腹である状態も少なかったため、常に空腹をごまかすために木の実などの自然の物を採取して食べるのが常であったのです。菓子の語源はこの「ごまかし」の「かし」が由来です。
750年頃になると、遣唐使により日本に砂糖が伝えられました。さらに遣隋使の時代になると、小麦粉で特徴的に形作られた「梅子(ばいし)」や「桃子(とうし)」などの唐菓子が伝来します。唐菓子は主に祭祀用として尊ばれていたお菓子でした。
室町時代後半になると、ポルトガルからカステラやボーロなどの南蛮菓子が伝承され高い注目を集めます。また、当時は色鮮やかな金平糖も人気を博していました。南蛮文化伝来とともにお菓子に砂糖や玉子を用いるようになり、和菓子の基盤が形作られていきます。
現在に継承されているような美しく繊細な和菓子が作られるようになったのは、江戸時代以降といわれています。戦国時代が終わりを告げ、平和の象徴として色鮮やかなで美しいデザインの和菓子が人気を博すようになりました。
特に盛んに作られていたのは京都と江戸で、京都では「京菓子」江戸では「上菓子」と呼ばれ、季節の移り変わりや花鳥風月をモチーフにし、お互い競い合うように美しく魅力的な和菓子を次々と生産していたそうです。「主菓子」といわれる蒸し菓子や生菓子、「干菓子」といわれる落雁や煎餅などが誕生したのも江戸時代でした。
明治時代に入ると、西洋文化の影響を受け和菓子はさらに発展。栗まんじゅうやチョコレートまんじゅうなどの焼き菓子も明治時代から登場しています。
和菓子職人のデザインの考え方
和菓子のデザインは現在も江戸時代の伝統を継承しています。江戸時代の和菓子は武家や朝廷内で催される儀式や典礼に供されていて、庶民が口にするお菓子とは区別されていました。これらは「献上菓子」と呼ばれ、移り変わる四季や琳派芸術、古典文学の影響を受けてデザインされているのが特徴です。
現代の和菓子職人も江戸時代から継承されたデザインを基に、思わず手に取りたくなるような五感を刺激する美しさ、手のひらにのる程度の適度なサイズ感、食べた人の記憶に残るインパクトのある形状や色彩などを念頭に置いてデザインしています。
完全オリジナルで和菓子を作る場合には、インスピレーションを感じたモチーフを基にデザインを描き、花弁や花芯、葉などのモチーフが持つ各部位をノートに書きだし、それぞれの部位に適した素材を選びます。そして、型押しなどの技法を使い、思い描いたデザインを表現していくという工程です。
また、梅の花をモチーフにした場合でも、花一輪でデザインするだけではなく、花びらだけにスポットを当ててデザインすることもあります。花びら一枚をモチーフにしたり、2枚の花弁を並行に重ねたりなど表現方法は様々です。
そのほか、テーマをもとに和菓子を創作することもあります。例えば、「秋」をテーマにした場合、秋から連想する「収穫」「紅葉」「高い空」などでデザインを思い描いていきます。この場合一つのモチーフにこだわる必要はありません。テーマが収穫なら、籠などを土台として、上にさつま芋やキノコ類などの収穫された野菜をトッピングするような形でデザインする和菓子もあります。紅葉がテーマであれば、形状にはこだわらず色彩のグラデーションで紅葉の美しさを表現する和菓子も多いです。テーマが高い空なら、秋の澄んだ美しい青空を寒天で表現し、「東雲羹」と呼ばれるメレンゲに羊羹を混ぜた素材で雲を表した和菓子もあります。
オリジナル和菓子の場合、基本的にデザインに決まりはありません。しかし多くの和菓子が日本の自然の美しさをモチーフにし、まるで絵画を描くように美しく表現されています。また、地域の特色を活かしたデザインが多いのも和菓子の特徴です。石川県金沢市では、石川に由来のある前田利家の家紋である「梅鉢紋」をデザインした福梅や、金沢の桃の節句で食される鯛や海老、梅の花や竹の子などをデザインした金花糖などがあります。
和菓子の芸術性の高さは海外でも高く評価されてきました。現在も、日本を観光に訪れる海外の人々は美しい和菓子に魅了され、お土産として買い求める人が後を絶ちません。
和菓子は日本の芸術と文化の象徴
和菓子職人のデザインの考え方を調査したところ、それはお菓子作りを超越した芸術的なものでした。古来の伝承を継承しながら、オリジナルな感性をプラスし、和菓子というキャンバスに手掛けた職人の想いや地域の魅力を伸びやかに描いているかのようです。食べるのが惜しくなるような美しい和菓子は、五感を刺激しながら人々の心を豊かにしてくれる魅力に満ちています。
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